岸和田の海に、貯木場がありまして、そこの防波堤には、おびただしい数のテトラポットが並べてありました。
彼は、浜風が涼しいこの場所をよく訪れていました。
整然と並べられたテトラポットは、その腕と腕が交互に並ぶ筋は、まるで梯子のようで、リズミカルに飛んで渡って行けそうに見えました。
実際、常連の釣り人は、そうして器用に行き来していました。
ある夏の夜、飲めないお酒を飲んで帰った日、社員寮の彼の部屋は、真夏の日中の熱エネルギーを、たっぷりと溜め込んでいて、小さなウィンドウファンでは、冷えるまでに2時間以上は必要で寝られる温度に下がるのは深夜を回る事になります。
シャワー室から出て、彼は自分の部屋に一度は戻ったものの、あまりの暑さに、半ズボンにTシャツ姿のまま、いつもの堤防に向かいました。
堤防のコンクリート壁は、まだ幾分暖かさを保っていましたが、浜風に冷やされていて、堤防の上に寝転ぶと、丁度良い感じでした。
吹き抜けていく優しい風、心地よい睡眠が彼を包みました。
2時間ほど寝てしまいましたが、夜明けまでにはまだ時間があり、空には満天の星と月。
またここは街灯が多く、テトラポットが梯子の様な構造に並べられた様が。はるか向こうまで、煌々と明るく照らされていました。
月明かりもあり、じっと獲物が当たるのを待つ釣り人の姿も目に入った。
しばらくして、彼は真っ直ぐに伸びる梯子構造の端っこ付近に立っていた。
1つ、2つと、右、左と、彼はテトラポットの伸ばす腕をリズム良く踏んで歩き出した。
端まで来ると、今度は少しテンポを早めて、折り返して行った。
徐々に、テンポを早めていたが、やがて、その速度は、走る速さになっていた。
酔いが冷めたからか、冷静さが彼に戻った。
この日は、夜明けまでに、寮の自分の部屋に戻って、一寝入りして、あくる日は、いつも通り出社して行った。
夏の終わりに、また、飲めないお酒を飲んでしまった日も、彼はここに来た。
寒さは感じない。まだ暖かさを感じる夜だった。
翌日、彼は会社を休んだ。理由は、勢いよくテトラポットの隙間に突っ込んでしまったからであった。
この堤防は、季節により、太陽が対岸の神戸か淡路島辺りに沈むのですが、夕方のわずかな時間、海原が夕日で黄金に染まる事があって、丁度その瞬間を超望遠レンズで拡大すると、なんとも趣のある絵が撮影できます。わざと、子供向けの天体望遠鏡の直焦点撮影で撮影しても、色のにじみや、ボケ具合が、撮影結果に、良い風合いを作ってくれたりします。