おもいうかべる

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何時頃だろう、「カランカラーン」と音がした、そしてまもなくまた「カランカラーン」と音がした。
しばらくしてまた、「カランカラーン」と音がして、そしてまもなくまた「カランカラーン」と音がした。
何度目かわからなくなった頃、「カランカラーン」と音がして「ガチャン・パリーン」と言う音が聞こえた。

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窓のある壁

壁に窓が有り

壁の窓の外側には、小さな板が窓の幅で取り付けられている

その板の大きさは、メモを書くのに紙を置いたり、お金を入れるトレイをおいたり出来るくらいのサイズ

窓の内側には机が有り、引き出しに筆記具やチケットが入っている。

今日も、誰も来ない

一人で客と受付の両方を演じてみる。

裏から表にまわり、石積みの壁のドアを開けて入る

ドアが開くとき、閉まるとき、カランカラーンと鐘がなる。

数メートル上にある窓口は、青い空を背景にぽっかり口を開けている。

窓口に続く石段を見上げると、日ざしの反射が美しい

登って行く途中、壁に引っ掛けられた植木鉢の荊棘が腕を伸ばしていて、

小さな棘が右腕を優しく、引っ掻いていく。

揺れる植木鉢に視線を奪われながら

長袖を着ていたら、絡んでしまったかも知れないと思う。

石段を登りきり、一息ついてから、窓口を覗き込む

誰も居ない

ごめんくださーい。と声をかける。

さぁ、次は受付役だ

窓口から左に回りこんだところにあるドアから中に入る。

窓口に歩み寄りながら、「いらっしゃいませ」

自然な身のこなしで、椅子を引き寄せ

机の前で座る。

「チケットですね?、どのチケットに致しましょう」とチケットの種類と値段が書かれたボードに視線を促す。

客が何処を見ているかで、引き出しが決まる。

次は客を演じる番だ

机にむかって右手にあるドアから外に出て客の役をする

チケットの種類と価格の書かれたボードに視線を投げると

蛾が一匹、価格の文字を隠している。

ここで、店員は一人芝居を中断して、箒を持ってボードの蛾をはらいに行った。

近所の宿に泊まっていた青年は、宿の窓から、この一部始終を眺めていた。

「あの店員さんは、何をしているんだろう?」とも思わず、ただ眺めていた。

集合する時間が来て、急斜面に作られた町並みを降りて行き、海岸の調査業務に出かけていった。

夜帰ってきたのはかなり遅く、夕方からの冷え込みで風邪でもひいてしまったようだ。

そして、翌朝。

気候のよいさわやかな朝にくらべて、

からだはおもく、やや頭痛があったので、痛みが治まるまで、ただベッドで、目をつむっていた。

何時頃だろう、「カランカラーン」と音がした、そしてまもなくまた「カランカラーン」と音がした。

しばらくしてまた、「カランカラーン」と音がして、そしてまもなくまた「カランカラーン」と音がした。

何度目かわからなくなった頃、「カランカラーン」と音がして「ガチャン・パリーン」と言う音が聞こえた。

後書き

学生の頃、オートバイの音を聞いて、「いい音だ」と言う人がいたりしたのですが、私は賛同できませんでした。

個人的には、無音がベストだと思っていたからです。

社会人になってから、プログラム関係やCPUを搭載したマシンの制作に関わることがあった時に、LEDの明滅だけで、ときめいている同年代の先輩がいました。

チカチカ、音もなく定期に明滅するLEDや、不定期に明滅するLEDを見て、ときめくなんて、変わった人だなと思っていました。

時々、やけに興奮して喜んでいたり、突然うぁーと叫んだり、LED見ながら情緒不安定に成る人。

コンピューターといえばディスプレイぐらいはあるものだと、当時は思っていました。

でもその人は、ワンボードのマイコン基盤みたいな製品の担当だったんです。

その人の脳裏には、そのマイコン基盤に埋め込まれた数多の機能やプログラムがあって、

これまで、その作業に携わってきたメンバーの苦労や、経費や、かけてきた労力のすべてが有って、

その先輩は、仕事が完成したのか、失敗したのか、LEDの明滅をみて、内部の動作を脳裏で感じて、この後のスケジュールを思っていたようです。

ですが、

私には、LEDがチカチカしているとしか見えませんでした。

そう言えば、学生の頃、オートバイの音について、しゃべっていたのはメカ好きの人でした。

彼には、内部で動くメカニズムの様子を脳裏に描くことが出来たのかも知れません。

と言うことで、

中身を知っている人と、そうでない人では、聞くポイントや見るポイントが違うので

感じ方や感想が違ってしまうようです。

何かについて、深く深く掘り下げて、その先に何かをつかみとれたとしても、周囲の人は理解できないかも知れない。と言う事があるようです。

また、何かをつかみとった様に振舞っているにもかかわらず、はためには、そうとは思えないことも有りますし。

人生における時間配分とか、自分の置かれた環境や時代性とか事情とか、人材マネジメントとか。

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